2次試験と診断実務の違い~知識とテクニックだけでは務まらない

中小企業診断士

このブログでは、ごく普通の30代男性会社員が9ヶ月と長期の育休取得し、 その期間も生かして独学で中小企業診断士試験に合格した体験を発信しています。

合格した令和3年度の2次試験の記憶も覚めやらぬまま、令和4年2月から15日間の実務補習を終えた私。
2次試験に合格できる知識やテクニックを持ってしても、診断実務でそのまま生かされることばかりではないことに気づかされました。

今回、自分向けのメモとしても残しておくべく、記事を書きました。

次のステップとして実務補習・実務従事がメインとなる、登録前の2次試験合格者には特に参考にしていただけるかもしれません。

2次試験と診断実務、これだけ違う

それでは具体的に、どこが違うと感じたか、いくつか紹介します。
なお診断実務とえらそうに書きましたが、令和4年2月に参加した実務補習の経験をもとにしています。

はじめての実務補習
中小企業診断士の登録に向けた最後のハードル、実務補習が始まりました。実務補習の概要と、第1クールの感想を紹介します。
実務補習2回目の感想~本当の始まり
中小企業診断士の登録に向けた実務補習15日間コース、真ん中の第2クールの感想です。第1クールとは異なり、あらゆる意味で本格的な経営診断の経験となりました。先生のキャラも大変に濃かった。
実務補習3回目の感想~スタートライン
中小企業診断士の登録に向けた実務補習、長かった15日間コースもついに最終の第3クールが終わりました。感想を紹介します。ここがゴールではなく、あくまでスタートラインと気を引き締めます。

診断実務に与件文は無い

2次試験では与件文が与えられ、そこから問題の答えを探しに行く形式ですよね。
この与件文、今から見返すと本当によくできています。
というのも、診断先企業の強みや弱みならびに外部環境の変化というSWOTの観点、今後の戦略のカギとなる成功体験や失敗体験、ときには回答のヒントになるような社長の心の中まで、細かく記載されています。
試験で合否を分けるには合格基準を定めなければいけないので、回答の方向性をある程度固定しておくことは必要なことです。

ただ、実務では与件文はありません
自身で作成する必要があります。
上記のような項目が集まればよいのですが、限られた期間ではどうしても網羅することは難しく、また社長の雑談という抵抗要因も多く発生しますので、終わってみると物足りないヒアリングだったということが往々にしてあります。

少なくとも診断先企業の社長自身が考える強みと弱みは何か、いま抱えている悩みは何か、だけは押さえておかなければいけません。

ヒアリングを鵜呑みにしない

診断先企業が言うことを何でも信じてはいけません

先方が考える自社の強み、実は競合も持っているのではないでしょうか?
先方が利用したがる外部の機会、実は先方の勘違いではないでしょうか?

診断士の先生に言わせれば、世の中の社長は分析ができる方のほうが少ないそうです。
自社の強みが見つからず強がって無理矢理ひねり出してしまったり、外部環境について思い込みが激しかったりする社長、私も既に実務補習で出会いました。

可能なら社長だけでなく他の経営幹部や従業員にも話を聞きたいですし、競合企業のホームページや統計データも活用して、いかに客観的な証拠を押さえられるかが重要です。

強みを抽出するためには「選ばれる理由」を確認する

強み(S)をなんとなく抽出していませんか?
診断先企業の持つ特徴が強みなのかそうでないのか実は弱みではないか、注意して分析する必要があります。

ここを補強するために、まずは「選ばれる理由」という観点から現状分析を行うことが効果的です。

この会社の製品・サービスは、なぜ多くの顧客に選ばれているのでしょうか
単に価格が安いからでなければ、品質が高い、納期遵守率が高い、顧客ニーズに最も合致している、など何らかの理由があるはずです。
これこそが診断先企業の強みです。

「強みは何か」という抽象的な質問よりも、「なぜ多くの顧客に選ばれるのか」という具体的な質問により、本当の強みにたどり着ける可能性が高まります。

参考にした文献として、『持ち味を活かす経営支援』を以下リンクにて紹介します。

「強み」という表現では答えづらいので「持ち味は?」と尋ねることで答えやすくなり、対話やコミュニケーションが円滑に進む。

『持ち味を活かす経営支援』、森下勉 著

持ち味を活かす経営支援 選ばれ続けるための知的資産経営のすすめ [ 森下勉 ]

特に外部環境はデータで裏付けが必要

外部環境である機会(O)や脅威(T)については、たとえ誰もが知っている出来事であっても、説得力を持たせるためにデータで裏付けが必要です。
たとえば、地域人口の増加や減少、市場の拡大や縮小など。

でないと、実際の外部環境の変化が自分が思い込んでいた方向と逆に動いていた、ということも起こりかねません。

診断先企業が調査していないことがほとんどで、一次データが揃うことはまれですが、幸い現代はインターネットに情報があふれていますので、二次データであれば比較的簡単に見つけることができます。
ちなみにデータ元として中小企業白書が役立つこともあります。

専門用語や抽象的な表現を理解させる必要がある

診断・助言に説得力を持たせるために、経営学の専門用語を使用することは多くあります。また抽象的な表現を使用することもあります。
ただしその場合、用語の意味を詳しく説明しなければなりません

専門用語の例:SWOT、4P、多角化
抽象的な表現の例:愛顧の獲得、組織の活性化

このとき、用語の意味をこちら側が十分に理解していないと、先方に十分に理解してもらうこともできません。
2次試験に受かるだけなら、回答にそれらしく散りばめれば偶然うまくいくかもしれませんが、診断実務ではごまかしが効きません。
最悪、詳しい経営者に間違った説明をしてしまい、不信感を抱かせてしまいかもしれません。

施策だけでなく効果の測定方法も提言する

2次試験のテクニックの語呂合わせとして有名な「ダナドコ」。
「誰に」「何を」「どのように」「効果」の頭文字を取ったものです。
つまり、施策の内容と、それを行ったことによる効果を述べれば、2次試験では十分です。

一方で診断実務では、効果を測定する方法についても、提言すべきです。

例えば、顧客満足度はどうやって測定するのでしょうか?
顧客アンケートで得られたコメントから大まかな傾向をつかむこともできますし、専門用語になりますがNPS(Net Promoter Score)という指標で定量化することもできます。

組織の活性化はもっと難しいですよね。
従業員アンケートから見た満足度、挑戦する姿勢を重視するなら新製品提案数なんてのも指標としてよさそうです。

施策を効果とともに並べれば、聞いている先方は何となくうまくいく気がしてくると思いますが、実際うまくいったのかを評価しなければ何も進化していません

いわゆるPDCAサイクルの計画(Plan)と実行(Do)だけでなく、評価(Check)して改善(Act)することで、初めて進化が訪れます。

財務戦略は弱みの克服だけにとらわれない

2次試験の事例Ⅳで毎年出題される財務分析。
収益性、安全性、効率性のうち、同業他社と比較して優れているものと劣っているものを挙げ、その根拠となる指標の数値を回答する問題ですね。

診断実務でも、この観点で財務分析するのですが、一見するとわかりやすい「劣っているものを改善する」という提言は、常に当てはめてよいというものでもありません。

例えば、同業他社よりも安全性が低い、具体的に固定比率が高い(悪い)となったとき、固定比率を同業他社並みにしようとだけ考えてしまうと、純利益が蓄積して純資産が増加してからでないと多額の投資ができない、という事態が発生します。
これって本当に最適な考え方なのでしょうか?

それよりも、多額の投資を長期借入金で賄うことができ、その投資による利益で長期借入金を返済することができれば、迅速な投資を実現することができます。
実際の中小企業や、大企業であっても、銀行からの借入や行政からの補助金で投資を賄うケースが圧倒的に多いです。
(もっともこの例では、固定比率ではなく固定長期適合率で考えれば、長期借入金による投資が悪い形でないことはすぐに理解することができます)

SWOT分析の過程で財務に関する強みや弱みも挙げるので、どうしても利用したり克服したりする施策をセットで考えたくなりますが、

財務的に同業他社より優れて/劣っている理由は何なのか優先的に対応すべき課題なのか、まずは判断すべきです。

まとめ

ここまで、2次試験の知識やテクニックだけでは必ずしも診断実務がうまくいくわけではない、という事例を紹介してきました。
実務補習を控える2次試験合格者の皆様におかれては参考にしていただければ幸いです。

ゆっくり考えれば「そんなのわかっているよ」と思うかもしれませんが、せっかく2次試験の勉強で得た知識やテクニックを生かしたくなってしまうのが人というものなのです。

なお、2次試験受験者は、診断実務は特に意識せず、まずは2次試験対策をきっちりと果たして合格してください!
2次試験に合格しないことには実務補習など診断実務にはたどり着けませんので。
合格するだけでも大変な2次試験、余計な意識を加えて皆さんの負担をいたずらに増やしてしまうのは本意ではありません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました